今朝Sさんに、芍薬を見に行こうと誘ったところから、急に「もしかしてカメラ趣味ですか?」と問われた。
最近はほぼ仕事でしか撮影しないけど、「カメラ」は、その昔は数十万円かけた趣味のひとつだったと思う。
デザイン出身の人は自分の作品のプロモーションを自分でできるようにと、学校のカリキュラムでカメラを習う場合が多い。
そこでカメラにハマるかどうかの差は多少あるがミュウさんはハマった方だった。
21歳の時、電気屋さんに色目を使ってかなり値引かせた10万円のデジタル一眼はSONY製。「君に似合うと思って、限定カラー取り寄せたんです」と勧められ買ったブラウンのボディカラーが超おしゃれな一台。
大満足したのはいいが、デジタル一眼の世界ではキャノンとニコンが双璧で、ソニー製品は物流量が少なかった。物量が少ないから追加用のレンズ一本一本は高い。
『流石に交換用のレンズの買い足しは中古にしよう』と決めてから改めてニッチをついてしまった事を知ったうら若きミュウさんでした。
まだスマホのカメラも大したことなかった時代、
肉眼で見る視野角が撮影できる「超広角」に分類されるSONY用レンズが欲しくて仕方なかったミュウさん。
日に何度もネット上を探しても無いし、時間を見つけては中古カメラ屋さんに通い陳列棚を目を皿にして眺める日々を数か月ほど送っていた。
そんなある日!中野の「フジヤカメラ」のショーケースの中に小さく鎮座する一本のレンズ!それは正しく私が探し求めていた「SONY用超広角レンズ」がっ!!!
感動しすぎて毛を逆立てながらしばらく眺めてしまった。
眺めてしまったのが悪かった。
すぐ隣に、中肉中背の眼鏡の叔父さんが立っていたのは気づいていて…
そのおじさん、すっと店員を呼びつけると「それ出して」との一言で、私が数か月恋焦がれてついに出会ったその子をなんの断りもなく買っていってしまったのでした。
その時の脱力感。今でも忘れません。
その一部始終を眺め、退店するおじさんの背中まで見送ってしまってから我に返り、呼びつけられていた店員さんを捕まえたミュウさん。
「あの、あのレンズ、在庫ありませんか?」
声に出したら本気で悲しくなって涙がこらえられなかった。カメラ屋で号泣する22歳女子。
呼び止めた店員さんは私より少し年上くらいの眼鏡で細身のお兄さん(名前はユアサさん)、なんと私のことをよく知っていたという。
「よく来店して下さってましたよね」「SONYの広角探されてたんですね」「僕もあなたがあのレンズ見てたの見てました」
「だから、とても言いにくいんですけど全店であの一本しかないんです」
近くに居たおばちゃん店員さんからティッシュをもらって必死に涙をフキフキするミュウさん。宥められながらしばらく『あのレンズをどれだけ探してたか』を気が済むまでユアサさんに訴えた。
するとユアサさん、おじさん店員に目配せした後に
「うちでは本当はやってないんですけど、特別に入荷したらお取り置きします。僕の責任でやらせてください」と申し出てくれた。
「ただし、あの一本も久しぶりに入った物なので、入荷にどれだけ時間がかかるかは分からないです。履歴で予測すると早くて半年です。いいですか?」との注意書きも添えられて。
どこにやったらいいかわからない気持ちを一気に受け止めてくれたその一言に舞い上がって、自分が探しているレンズの仕様、予算と自分の名前と連絡先を書き、ユアサさんに渡した。 何度も何度もお礼を言ってお店を出て。
「時間はかかっても、欲しいものを探してもらえる」安心感から、自分で探す事を急に辞めて、辞めた拍子にレンズの事もユアサさんの事も知らない間に忘れていたのでした。