結果、Sさんは「迷ってたけど…」から始まり「連絡してなくてごめんね」で閉める内容で私と会う事を承諾してくれた。
ごめんなんて。私だって連絡していなかったわけだし。
彼の気質を考えたらもっと閉じこもりたかっただろうに。傷ついているのは彼で、謝るのは私の方なのに。
私が不安だろうと思って「会う」選択をしてくれたことが容易に想像できる。Sさんは本当に強い人で、そんな彼で本当に良かった。
私のスマートウォッチが彼の名前を表示し、ラインの返事があった事に気付く。
それまで日に何度も見た名前が数日ぶりに表示されて、それを心底待ってた自分を知る。
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親友M子のアドバイス通り、心配する気持ちと外見は別。
初めて会った時同様の丁寧な化粧と、髪の手入れ、服装も気を使って。
なぜなら、特に彼は私の顔が好きだから。
「初心に帰る」つもりではなかったけど、数か月前、まだ彼に好かれたいと真剣だった自分の姿を鏡の中に見て背筋が伸びた。
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スマートで色白で、少しだけ“人と違う雰囲気”をまとう彼は遠くからでもすぐ見つけられる。
真夏日の夕暮れ時はまだ明るく、彼の赤毛が普段より明るく見える。
いつもと変わらない飄々とした表情で私を迎えて「全然、大丈夫」と言う。 これはレーシックが私の前評判よりどってこと無かったと言う話。
寄り道せずに帰路に着く。
「いつもより髪が明るく見える」と私が言うと「『染めました?』って最近言われる〜」と返す。 少し会話を探しながら歩く違和感はあるものの、お互いいつもの調子に。
予定通り彼の家の下まで送り届けて帰ろうとすると「少し待って。来て」と言う。玄関まで来て「今週のおみやげ..」と、そそくさと出張先のお土産を持ってくる。
私は用意したギフトを渡す。
結局、彼の部屋に上がって、プレゼント交換をして、どうでもいい話をして。
目がシクシク痛みだした彼を見て「じゃ、帰るね」と言うと、
「俺もコンビニ行く。」と言ってついてきた。
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結局彼はいつも通りだった。
でも、その"最近のいつも通りの彼"は、仕事疲れてしている人だと改めて気づけた。
会うかも分からなかったのに、私の好きなお菓子を結局買って、結局できる限り着いてくる。愛しい彼。
振り向かずに後ろ手でバイバイは私。
彼の部屋にあったゼクシィは、私は書店で手に取ったことすらない。
構造的に分解して、打撲の事と、将来の事を分けて考えられるのはやっぱり彼のほう。
自分の幼さを改めて知らされて、いたたまれなくて早く帰りたかったのは私。
来週は妹が泊まりに来るからまた彼と距離が開くし。ちょっと、ほっとする。
分解して考えられる彼の本心の置き場所が結局よく分からなくて怖い。
「来世もSさんと夫婦になる」と思ったけど。パートナーとの関係構築がこうなら。
来世は生まれ変わらなくても良いかも。
緊張して疲れて、ぐっすり眠った。