初めての「夕飯会」デートは、お酒も楽しみ8時ころには早々に片付け。我が家自慢の川沿いの夜景を見に散策へ出かけた。
お酒も抜けない、軽い足取り。運よく晴れた天気、秋の虫のさざめき、波の音、ビル群の夜景と、時折立ち止まって写真を嬉しそうに撮るF君。
川沿いに植えられた植物、川沿いのカフェ、釣りをしているおじさん。
どうでもいい話をしながら、私の後を付いてくる彼を確認しながら海の入り口までたどり着く。川の上を走り抜ける風は肌寒いくらい。
Tシャツ1枚で出てきたF君に何度か寒くないか?聞くと「大丈夫です」の返事。
ビルの一つ一つを指さして話をして、ちょっと飽きたので折り返して帰宅。
振り返ると後ろに居たF君が腕を広げて笑顔で立っている。
「ミュウさん。ハグです。」
私はこれが、嫌いではないけど得意ではない。体の細いF君のハグは”抱かれ心地”があまり良くなく、ただ距離の近さに緊張ばかりで気持ちが落ち着かないから。
ずっとこうしたかったんですよ。と言うF君を引っ張りながら帰路へ向かうのは辞めない。立ち止まって顔を見ながらなんて、恥ずかしくてできない。
私の脇に指先を突っ込む状態で腕に縋りつくF君。それをぐいぐい引きずりながら歩く私。
それまでの数日、部下ではない本質の彼自身と向き合い感じた愛しさ、私へ向けてくれる愛情それが嬉しくて”人間に戻れた”ような気がした。そんな話をすると、彼は目を潤ませながら「当然です」と言ってくれる。
歩き疲れて、広く開けたベンチに腰掛けると、私の首元の匂いを思い切り吸い込みながら「僕、ワクチン打ちました」「だからキスですね」と言う。
最初のデートで彼を帰すために私が出した条件「ワクチン打ったらキスしてあげる」を守ってきたとの主張だった。
F君のちいさな顎にはヒゲの感触。「F君もヒゲ生えるんだね」というと「僕も男ですからね!」と、妙に得意げ。
軽く歯が当たる程度のキスを一度だけすると「もっと欲しいです。」とねだりながら私の耳を食べまくるF君。だんだん恥ずかしさと可笑しさがこみあげて、また引きずりながら帰ることにした。
こいつは私の首や耳周りの匂いが大好きで、私がどこに居ても匂いで判るらしい。 私から見たら… まだF君は、犬の方が近いかもしれない。